water_sky’s waterbound diary

酒に溶かしたやり場のなさと打ち明けられた愛のあいだ、泥の川とディラックの海のあいだ

姫の涙も枯れ果てぬ(小夜姫の涙)[大熊町大川原]☆

 楢葉町の「郭公水」(五月の光(郭公水)[楢葉町大谷]☆ - water_sky’s waterbound diary)の後に向かったのが、4月10日に一部避難指示解除となったばかりの大熊町の「小夜姫の涙」と呼ばれる湧き水。

 昔、福島民報から取り寄せた書籍「ふくしま湧水物語」にも掲載されていて*1、存在こそ知ってはいたものの訪れることのないまま、震災後も懸案の湧き水として郭公水とともに心に引っ掛かっていた。

 4月10日に居住制限区域となっていた大川原地区が避難指示を解かれたのも後押しとなって、ひとつ行ってみるか。となったのである。

 小夜姫の涙へは大熊町大川原地区にある坂下ダムからのアプローチとなる。避難指示解除に合わせて多くの人がダム湖岸の桜を見に訪れたようで、ニュースにも取り上げられていた。またダムの上流には日隠山の登山口もあって、「じじい部隊」と呼ばれた町現地連絡事務所駐在の6人の"精鋭たち"による登山道の再整備などによって、居住制限区域指定のころから登山客など人の出入りは結構あったようである。

 ダムの事務所から先は2018年時点では通行止めになっていたようだが、おそらく4月10日の避難指示解除に伴って撤去されたのだろう、さらに奥へ進めるようになっていて、前途洋々たる心持だった。湧き水はダムの上流にあるというふうに聞いていてまたそういうイメージを持っていたので、さらにぐんぐん進んでいけばやがてたどり着くであろうことは明白に思えた。日隠山登山口を右に見送ってさらに奥へと進む。

 するとほどなく通行止めの看板。これまでダムの左岸に沿ってきたが、道はこのままぐるりとダムを右岸側へ回り込んでいくために南下する。それとは別に西へと山中に入っていく林道も枝分かれしており、ははぁん、これが小夜姫の涙が湧いているという林道だな? と感づいた僕は、ちょうど通行止めの左側に開かれた駐車スペースに車を置いて、林道へのアプローチを開始した。もちろん、4Lのペットボトルを小脇に携えて。

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 少しばかり上っていくと標識を発見。「大川原林道」というらしい。

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 写真を1枚も撮っていないのがもったいないほどに美しい渓流を左下に見ながら、林道はゆるゆると高度を上げていく。途中、倒木が道を遮っていたり、ぬかるみに真新しい人の足跡を見つけて鼓舞されたりと気分を上下させながら、結局15分ほど辿ってから引き返してきてしまった。どうも湧き水があるような気配がせず、道を間違ったような気がしていた。

 舗装路まで下りてきて目の前のガードレールをふと見ると、こんな木製の看板がくくりつけられていた。

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 「小夜姫の涙 1.7km 徒歩25分 →」

 その矢印は、ダムを回り込んでいく舗装路の方向を指している。なぁんだ、結局こっちをずっと詰めていくってことかよ! はじめから看板見ておくんだった、時間無駄にしたなあ! と、あまり深いこと考えずに通行止めの看板をちょいとまたがせてもらって歩き始めた。だがね、はじめからダムの事務所に行って話を聞いておくべきだったんだよね。

 山側のどこかから湧き出ているんだろう? そうであってくれ。と願いながらダラダラ歩き続けても、一向に湧き水は見つからない。ダムの湖面は青く風はさわやかなのだけれど、だんだん焦燥がつのっていく(運動不足のため早くも足が痛くなってきた)。

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 そのうちに、橋のたもとで再び林道との分岐。今度こそこっちだなぁ? 騙されないぞ! くらいの気持ちで意気揚々と飛びついたはいいが、途中でそれなりに立派なカツラなど見つけたものの単調な林道歩きが続いた。

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 看板では「徒歩25分」とのことだったが、その25分を歩いてみても湧き水が見つかる気配は相変わらず、ない。

 そのうちに見つけた標柱、所在地を見ると「富岡町」になっている! それもそのはず、坂下ダムは大熊町富岡町の境に位置し、事務所のある左岸(北側)が大熊町、右岸(南側)が富岡町に属しているのだ。だから、ダム右岸をめぐる舗装路から南下する林道は、その起点からすでに大熊町ではない!

 この時点で歩行開始から25分どころか1時間を過ぎており、何ていうか失敗だなこりゃ感を存分に味わっていたが、林道から舗装路に復帰すると一縷の望みを託して橋を渡り、さらに奥まで行ってみることに。やがて舗装路が終るかつての車止めから先、ダムの右岸側天端まで到達。

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 そこから振り返って見る坂下ダムは美しかった。

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 でも湧き水は見つからなかった。

 さっきまで左岸でたむろしていたバイカーたちが走り去っていって、何だか取り残された気分になった。仕方ない、またぐるりとダムの右岸を引き返して車まで戻るしかないのだ(帰りがけにグレイプバインの「リトル・ガール・トリートメント」を歌った記憶がある。♪おやすみリトル・ガール/失敗だ/こんな日はっんとにI'm so tired)。

 

 最後に、ダムカードを頂くために事務所に立ち寄った。折りしも外出中の時間帯で、今日はつくづくツイてないな…と玄関口で突っ立っていたら、ちょうど事務所の方が戻ってきた。よかった!

 玄関に入って記帳して、ダムカードを頂く。裏面には「じじい部隊」がダム建設時に植えた約500本の桜を手入れしていると書かれているが、2019年3月末で解散したのに伴い、現在では桜も含めたダム管理を2人で行っているという。カードを配布してくださった事務所の方2人である。阿呆面しててらてらダムの周りを歩いてきた身としては、非常に頭の下がる思いである。

 ついでに小夜姫の涙についても聞いてみた。すると、衝撃の回答が。

 まず、場所は最初に入って引き返した林道で間違いないのだそうだ。(木製の看板は以前は独立して立っていて林道の方を指していたようだが、倒壊した後にガードレールにくくりつけられたらしい。確かに写真を見ると倒れた2本の足がある。紛らわしすぎるわ!)そして去年調査したところ、震災の影響によるものか岩盤が崩落しており、湧き水を確認できなかったとのこと!

 何と、小夜姫の涙は枯れている可能性がほぼ確定的となった。はじめから聞いておれば文字通り無駄足を踏むこともなかったが…、それにつけても残念な結果となった。震災の前年にこの近くを通った時に立ち寄ることも考えたが、後回しにしてしまったことが今さらながら悔やまれる。

 

 この湧き水の由来については他のHP等に詳しいのでGoogleを当たってもらえれば幸いだが、この地に残る伝説で、輿入れした小夜姫が故郷に戻ることができずに流した涙からとられている。

 帰りたいのに帰れない。そんな小夜姫の涙も枯れ果てた。望みも消えてのことか、悲しみの終焉か、それは誰にもまだ分からない。個人的には、再び姫がこの地に戻り、喜悦の涙を流すことを望んでいる。そのときこそはもちろん、4Lのペットボトルを小脇に携えて馳せ参じますんで、ええ、お嬢様!

 

*  *    *  *  *

 

 久々に山を歩き回ったけれど成果がなくてI'm so tiredだし、はからずも年端の行かない小夜姫=リトル・ガールだし、いきがかり上グレイプバインの「リトル・ガール・トリートメント」。ま、これぶっちゃけ風俗の歌なんですけどね、姫。個人的には夜に働く風俗嬢の一人娘を面倒見る間男の歌。というふうに解釈してじぃ~んと来るのですが。3rdアルバムの時点ですでに普遍的な愛が歌われているのだが、それが肉欲との絶妙なバランスでミックスされていることが感動的。これはスタジオライブだが、原曲よりキーが半音高いですよね?

 

*1:久々に読み返してみたら「名前ベスト3」にこの小夜姫の涙が選出されていた。さらに「総合ベスト3」の3位にも選ばれている