「東北のマッターホルン」ってご存知ですか? マッターホルンというのは、アルプス山脈に属しスイスとイタリアの国境にそびえる標高4,478mの尖峰であることは今さら説明するまでもないことですが(いまWikipediaを検索した)、山容がよく似ていることから只見町の蒲生岳がそう呼ばれ、町のシンボルのような存在として親しまれています。
標高は828mと本家の7分の1程度しかありません6分の1もありませんが、そのぶん厳しさも76分の1程度と考えれば(それでも登山道は概して急だし結構危ない箇所も多い)、多くの人に登られている山です。
山域ではカタクリの群落やアカモノ、イワカガミ、イワウチワといった高山植物スタンダード、また野生では限定された場所にしか存在しないヒメサユリが咲いているなど、多くの植物を見ることができます。
←環境省のレッドリストにも準絶滅危惧種として登録されているヒメサユリ。ちょうど今の時季(6月)咲いてるんじゃないだろか。以前蒲生岳に登った時にたまたま只見町ブナセンターの関係者の方にいろいろとお話を伺ったのだが、近年カモシカが激増しているそうで、ヒメサユリも食害が懸念されているという。この日もヒメサユリを見に登ってきたのだと仰っていた。
山頂まで登るとほぼ360度さえぎることのないパノラマが広がり、会津朝日岳をはじめ奥会津の名山の数々が望めるはずですが、私が登った日はあいにくの曇りで(それでもまだ雪をかむっている山々が望まれた)、しかもクマんバチが自らのテリトリーを主張してぶんぶん唸って威嚇してくるのであまりゆっくりする気分にならず、そそくさと下りてきてしまいました。
そんな蒲生岳の麓に、アメリカで赤い靴下穿いているクローザーもびっくりのキレを持つ上原(かんばら)清水は流れています。
もっともスタンダードなコースである久保登山口は蒲生岳の南麓から山頂をめざしますが、上原清水はその下です。
蒲生岳の南麓、久保登山口付近から蒲生岳山頂部を眺めます。そこから脇へそれる小道を下っていけば上原清水はすぐ。雪解けの水がごんごん湧き出ていますねー。ここは1年中水が枯れることなく湧出しているそうで、もっと雪が残っている時季に来ると、本当にすごい量の水が出ています。水に手を当ててみると、"清冽"や"爽快"、"湧き水って冷たくって気持ちいいね☆"といったような言葉が串刺しになってしまいそうなほど冷たく、10秒と手を漬けていられません。おおお。その冷たさ(それは"冷徹"といってもいいくらい)に、一介の旅行者には分からない奥会津の厳しい気候が隠れているような気がして、思わず雪の残る山を遠く眺めたのでした。浅草岳方面。
この水を口に含むと、より強く雪の香りを感じて、只見町の湧き水の中でもお気に入りの場所です。