water_sky’s waterbound diary

酒に溶かしたやり場のなさと打ち明けられた愛のあいだ、泥の川とディラックの海のあいだ

あなた、おまえ、夫婦桜[城里町御前山]

 茨城県北部の御前山といえば、「関東の嵐山」と呼ばれて名高い。何だか笑っちゃうようなネーミングだけどこれがまた結構似てるのだ。江戸時代に水戸藩が"御留山"として樹木の伐採を禁じたためブナの原生林や杉の巨木が今も残り、一年中鬱蒼とした山域は御前山大橋(あの赤くて古い橋です)から眺めると「わりと、ふーこーめいびー、たぶん」な景色である。

 そんな御前山地域だが、春には山の至るところにヤマザクラが咲きそれがまた風流なのだ。関東の吉野山と言ってもいいのではないかと個人的には思わないでもない。メイビー。しかし知られた一本桜は皆無である。なので先の情報には驚いた。何と樹齢200年にもなろうかという桜が発見されたという。

 詳細は「御前山と那珂川を活性化する会」に、また最近地元紙でも紹介されたそうなので、そちらに当たってもらえればと思うが、同会が御前山地域の豊富な観光資源をアピールしようと、白山と赤沢富士(登ったことがあるが山頂の展望はないものの日光連山がよく見える場所がある)とを結ぶ登山ルートの整備を行う中で2本のヤマザクラを見つけたとのこと。すわ大発見。と思った私も先日見に行ってみた(探索ルートについては省略。散歩感覚だと少々骨は折れます)。

 杉林に囲まれた(実際は杉林の中に埋もれていたのを同会の方々が開墾・整備した)山中にその桜はあった。確かに立派な幹の2本のヤマザクラだ。残念ながらすでに多くの花びらが散った後であり、今も小雨混じりの白い空に向かってはらはらと風に乗っていくところだった。

長寿夫婦桜

 写真左の桜が「こう」さん、右が「ふく」さんと名付けられている。何で…としばし考えはたと気づく。二人合わせて「幸福」ね! 同会によって「長寿夫婦桜」と名付けられたこの桜の他にも、近傍に「太郎」「次郎」また「和枝」という桜が、少し離れて「よしゑ桐」と、数多くの巨木が存在する。一帯は同会によってきれいに整備され、倒した木を利用してベンチなども設営されている。白山~赤沢富士の登山コースの中継地点でもあり、花見のみならず休憩にも最適なスポットとなるだろう。

 御前山の山中に突如現れた立派な桜の古木。桜としては僕のような闖入者が訪れるのは迷惑だろうが、古い巨木を眺める楽しみというのは幸福に近い。その幸福とは、今この瞬間、この世界に対して全く何の影響も及ぼさないであろう無益な存在、それが何百年と命を紡いできた事実、そのマクロとミクロのパースペクティヴの転換点に身を置くことだ。そのダイナミズムの前で、人間の価値観など全くの無益に等しい。だがそんなことを考えるのも意味を成さない生命の脱構築が古い巨木だ。茨城県北部に一対の桜が加わったことを寿ぎたいと思う。とはいえ樹齢200年といったらまだまだひよっこの部類ではないか。これから何百年と無事に命を紡いでいくことを願いたい。

 

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 ところで城里町の白山にはだいぶ昔に登ったことがあります。当時は登山道こそありましたがヤブに近いような箇所もあり、無謀にも真夏に登りましたが、なかなか面白かったのを覚えています。

 前述した赤沢富士からは、北西方面の日光連山が遠く望める。