water_sky’s waterbound diary

酒に溶かしたやり場のなさと打ち明けられた愛のあいだ、泥の川とディラックの海のあいだ

茂庭に熊は出ているか②:西滝[福島市飯坂町茂庭]☆☆☆☆☆

 前回(茂庭に熊は出ているか①:蓮華滝[福島市飯坂町茂庭] - water_sky’s waterbound diary)からの続きです。

 今年(2023年)は例年に増して熊の出没が多く、人が危害を加えられるケースが連日のように報告され、これに対して「熊を殺すな」という声も上がり(まるで「シン・ゴジラ」の二つのデモを観ているようでもある)、大変なことになっている。自分も滝などを見に行く時には熊の恐怖におびえながらのことが多いため、福島市の茂庭地区のことを思い出し、13年も前のことではあるが振り返っているところです。なぜならば、もう熊の出るような場所には体力的にも精神的にも足を運ぶのがしんどいからです。大して行ったことないくせに。

 

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 本日のBGMはFat Jonの「Beyond Love」。茂庭に降り注ぐ朝の光が鮮やかに色づいた木々の葉っぱや冷たい空気の粒に反射してきらめく様子を想像しながら聴いてください。ええ、前回と一緒ですね。



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 早朝、熊ならぬ猿に出合いました。

 蓮華滝に向かうより前のまだ薄暗い時間。野生の猿を見たことがあるかどうかは覚えていませんでしたが、こんな形で出合ったことに驚き。これはますますヤバいなあ…(熊に遭うかも)という微妙に重たい気分となるのでした。

 これから向かう西滝は、前回ご紹介した蓮華滝よりさらに直線距離で3キロ弱、北に向かった場所にあります。布入川の支流にかかる滝で、事前情報だとなかなか神秘的かつ端正な印象。勝手なイメージですが、蓮華滝が武田信玄なら西滝が上杉謙信か。

 この西滝不動尊が目印。林道はさらに奥まで続いていますが、ここに車を停めて徒歩で沢まで降りて遡行します。徒渉する場面もあり、長靴を穿いていった方がよいです。

 ちなみに不動尊の奥に見える白い山肌は茂庭の景勝地で、大蛇伝説が残っているそう。何でもその昔、茂庭の菅沼に大蛇が棲んでおり、たびたび水害を起こして村人を困らせたとのことで、その大蛇が吹きかけた息で岩が白くなったんだそうです。大蛇といえば、以前ご紹介した土湯温泉の女沼を思い出します(女沼と思いの滝[福島市土湯温泉町]☆☆☆☆ - water_sky’s waterbound diary)が、水資源の豊かな場所は水害も多かったんでしょうね。

 早朝でただでさえ薄暗い上に、木々に覆われ光の入らない深い沢。否応なしに熊との遭遇が想像されます。木々のざわめき、爆ぜる水、周囲の音がすべて熊の兆候に感じられる。カラカラに渇く喉。沢の音にかき消されないように腰につけた熊鈴を鳴らしながら、ひとり沢を遡行。

 10分ほど進むと突然、眼前に信じがたい光景。何だあれは… あれが西滝なのか?

西滝

 真っすぐに伸びた沢の先に、真っすぐに落ちる水。こんな露骨な滝ってある? まるでプログラミングみたいに計算された美、自然がみずから演出するいやらしいほどに愚直な神秘が私を待ち受けていたのです。これには驚嘆するしかない。熊の恐怖もひととき忘れ、歓喜の最終アプローチ。

 落差は10mほどですが、息をのむほど美しい。これ以上ない贅沢な光景を前に、しかしよぎるのは熊の不安。一向に暗いままの谷、森は滝前にしてその音をさらに強め、まるでここから立ち去れと言わんがばかりにざわめきます。その圧迫感に圧され、何度も振り返って何度もその姿を味わいながら引き返します。

 

 茂庭の里に戻れば、どっしりと構える摺上川ダムと今やすっかり明るい光をたたえた青空。ダムの下には温泉施設「もにわの湯」があります。こぢんまりとしてはいるが非常に居心地の良い温泉ですよ(今もやってるのか? やってました。露天風呂が使えないみたい)。熊の恐怖でかいた冷や汗を流しに行こう。

 

 というわけで、福島市茂庭地区の2つの滝をご紹介しました。

 茂庭地区には他にも行人滝や滑滝など、いくつもの滝が存在します。上記のように摺上川ダムやもにわの湯など見どころも多く、魅力的な場所です。熊に気を付けながら、ぜひ楽しい茂庭めぐりを!

 

番外:摺上川と無名滝