water_sky’s waterbound diary

酒に溶かしたやり場のなさと打ち明けられた愛のあいだ、泥の川とディラックの海のあいだ

出流原弁天池[佐野市出流原町]☆

 「日本の名水百選」に堂々名を連ねる北関東屈指の名水地、出流原弁天池。ずっと行きたいと思っていたが、先日ついにその聖域に足を踏み入れることができた。ンが。

 

(以下、画像中の「佐野市出流原」は正しくは「佐野市出流原町」です。「町」が抜けていました)

f:id:water_sky:20210503105247j:plain

 結論から言うと、ここ水汲めなかった。汲めない水はただの水だ

 いや正確にはすぐ近くの旅館で採水できるそうなのだが…、って旅館なんかあるんかい。私の長年のイメージでは、凡夫が気軽に立ち寄るのもはばかられるような聖なる地だったので、そりゃまあ水はとことん澄んで綺麗だけれども、周囲はずいぶん俗化されてるのなあ…というのが率直な感想だった。もっと率直に言えば、道狭い、駐車場どこ?

 池のほとりにある売店では幾人かのマダム店員たちが嬌声を上げていた。私は幾分興ざめし…いや、私は森に囲まれた暗い池のほとりを歩いた。じとっとした雰囲気と遠い嬌声は私の心の反映として場末感を催させた。やはり水を汲めそうな場所は見当たらなかった。一眼レフのカメラを手に取るとメモリーカードを忘れていたことに気づいた。何だかうまくいかないなあ。

 私の乏しい経験から、山形県の山寺(立石寺)に雰囲気が近いと感じた。素晴らしい自然の景観にへばりつくように売店や旅館等々がギュッとひしめくという聖と俗の関係、また後述の弁天池に隣接する磯山弁財天はまさにコンパクト山寺と言っていいかもしれない。

f:id:water_sky:20210503110327j:plain

 簡単にスペックを箇条書きで挙げると、

・1956年に県天然記念物に指定

・1985年に環境省(当時は庁)の「名水百選」に選定

石灰岩の地層の割れ目から年間通じ約16℃の水温で結構いっぱい湧出

・朝日長者伝説

 

 国道293号を西進し佐野市に入る前からわかる独特の景観、それは大きく削られて原型がどうだったか全然分からない山々の奇妙な稜線と、麓に並ぶ武骨な工場群。佐野市の北側に広がる石灰岩の地層が、弁天池を形成したのだった。

 

 はるばるやってきながら水は汲めなかったけれども(繰り返しますが近くの旅館で採水は可能)、せっかくだから付近も散策してみよう。弁天池の東側に隣接する磯山弁財天をちょろっと覗いてみた。

f:id:water_sky:20210503113420j:plain

 したらば上に続く石段が伸びている。結構延々と伸びていそう。げっ。この感じはやはり延々と石段を上り詰めていく山寺に雰囲気が似ている。最近の運動不足がたたらない程度の上りの末に湧き水発見。

f:id:water_sky:20210503113911j:plain

 と言っても汲むようなものでもなく手水である。ここで道は辻のようになっており、さらに山中を周遊し弁天池へと下っていく散策路が真っすぐ上に伸び、あるいは右手にちょっと下れば銭あらい弁天の祠あり、そして左手に進めば下からも見えていた堂に至る。

f:id:water_sky:20210503115345j:plain

 佐野市の田園風景が一望できるが、眺望こそ異なるものの堂宇の造りや眺めた感じなんかがまさに山寺を彷彿させるものがあった。真下を見ると結構な高度感があり、ちょっとくらっとした。

 942年に藤原秀郷が建立したとの伝。

 

 近くに旅館もあるからか、磯山弁財天や弁天池には平日でもそれなりの人が散策に来ていたが、怪しげな中年カップルの姿も数組。しっぽりと聖なる水に濡れるのも悪くない…(普通に夫婦連れだろうが)。だが、むしろ冴えない顔をして背中を丸め一人で歩く俺の方こそ今や中年期に差し掛かった怪しい男に見えるのだろう。ふと水面に映った自分の顔を見やると、果たしてそれは奇異に歪んでいた。僕は今どこにいるのだ? でもそこがどこなのか僕にはわからなかった。見当もつかなかった。いったいここはどこなんだ?

 

 弁天池よ、私はもう一度お前を訪ねるかもしれない。そのときは水面に映った顔が幾分は自分で直視できるようになっていることだろう。だから弁天池よ、お前とは今生の別れかもしれぬ。

 

  水の音を 夜半にも聞きし 出流原

 

f:id:water_sky:20210503120325j:plain

 

  *  *      *    *  * *   *    *

 

 

 Kero Kero Bonitoはイングランドの3人組音楽ユニット。イギリス人の男性2人に日英ハーフのサラ・ミドリ・ペリーがボーカルとして参加。エレクトロニカを中心としたポップなサウンドに日本語と英語が混ぜこぜになった独特の歌詞を乗せ、チープでポップでキュートな音楽を展開。日本ではゲームの音楽に採用されたりネットで話題になったりしてひところ静かな注目を呼んでいたようだけど、この曲はケロ・ケロ・ボニトとしては若干毛色の違う作品になっていて、サウンド歌詞共にだいぶシリアス寄り。でも僕はこれが大好物。ちょうどローマ史に関連してイングランドの昔、七王国時代の話を読んでいたころに聴いていたので、荒涼で茫漠とした世界の果てのような枯れ草の平原を想起させる曲調に非常な没入感があった。この曲が収録されたのが「Civilisation Ⅰ」で(「Battle Line」もなかなか良い)、じゃあ「Ⅱ」もあるだろと楽しみにしていたのだがつい先日EPがリリースされたばかりのようで(bandcampで公開中)、今ざっと聴いてみたけど結構ヤバいぞ。従来のポップなサウンドの中に「The River」のシリアスなニュアンスを織り込んで、トータルな完成度の底上げに成功していると感じる。作品として成熟してる。