water_sky’s waterbound diary

酒に溶かしたやり場のなさと打ち明けられた愛のあいだ、泥の川とディラックの海のあいだ

私が神様?真弓清水[新地町真弓]☆☆☆☆☆

 前回ご紹介した「いっぱい清水」から五社壇という山を挟んだ真南に湧出するのが、今回向かう「真弓清水」。山の北麓と南麓でそれぞれ湧き水が出ているという何ともたまらないロケーション、直線距離では1キロ余りですが、山を迂回して一度麓まで下り、東側から回り込んでいく必要があるため、車で12分ほど離れています。

 ふたたび宮城県方面へと車を走らせると、片側1車線の快適な山道には通行止めの立て看板(2022年7月現在)。そのすぐ脇、南向きに真弓清水は湧出しています。到着。

 

真 弓 清 水

 

 驚くのはその水量。2か所から水は出ているのですが、向かって右側から出る水の量と勢いがものすごい。いっぱい清水をしのぐほどの圧力で一直線に水が吐き出されており、12Lのタンクがわずか10秒で一杯になりました。特筆すべきはその汲みやすさ。水の勢いがすごいとはいえ、写真の通りタンク等を据えやすく水も直線的に落ちるため安定して水を納めることができます。これはいっぱい清水に対して大きなアドバンテージであります。口に含むといっぱい清水同様、ほのかに甘みがある。

 現地には石碑が建てられており、真弓清水が昭和年間に周辺地域の簡易水道に使われていたこと、「真弓」という地名の由来などが彫られています。

 

 しばらくそこにとどまっているとバイクの方がやって来たので、楽しく湧き水談義に花を咲かせている(こちらが一方的に湧き水の話をまくし立てる)と、背後から人の声が。ドキッとして振り返るとハイカーとおぼしきご夫婦連れで、果たして鹿狼山(かろうさん:標高492.3m)に登ったが予定と違う道を下ってきてしまったようだということでした。通行止めになっている道路の先に登山口があって、そこからしばらくアスファルトを歩いてこられたとのこと。目指す目的地はここからさらに歩かなければならないため、私の車でお送りすることに。登山ルートから外れた一般道をとぼとぼ歩くのは、いつたどり着けるのか分からない寂しさとやるせなさに満ちているのを知っている私としても、放っておくわけにはいかない。

 急遽車内を片付けるのですが、まあこれが物を詰め込んで汚いんだ。家も職場もやはり片付かず物が散乱しているありさまで、仕事中は不必要なまでに机の上に物が散りばめられている。よく「仕事できない人あるある:デスクの整理整頓ができない」なんてな話を聞くけれど、そうです。いい加減なことを言わないでほしい。反証は私。反証になっていない。そうです。

 まあ水でも飲んで待っていてください、と真弓清水をさり気なくPRし、とにかく車の後部へ荷物をパンパン押し込み、何とか後部座席の空間を確保して(助手席にももともと物が詰まっている)、いざ出発。鹿狼山とは何とも雰囲気のある名前ですが、山頂は四方全てが見渡せ、太平洋も望むことができる人気の山だそうで、結構な数の登山客がいるようです。さらに東北中央自動車道の一部である相馬福島道路が令和3年に全線開通したことから、福島方面から浜通りへのアクセスが向上したというお話も伺いました。そういった話の中でえらく感謝された私は、「山の神様に出会った!」と言われたのでした。

 そうか、私が神だったのか。これまで私は一介の人間としてこの社会の片隅で暮らしてきたが、どうにも居心地の悪さをぬぐい切れず悶々と過ごしてきた。だがそれも無理からぬ話、なぜならば私は神だから。そりゃあ人間のせせっこましい価値観になじむわけがないよね。仕事だってそんなうまくできるはずもないよね。神だもの。ただ湧き水好きの私としてはさしづめ「水の神様」と呼んでいただきたいが、ね…というお話でした。まあ、それだけの話、というか…。

 と、大して面白くもない神の話で膨らませようとして膨らまなかった自分の語り口に対して自虐的なニュアンスでまとめましたが、ご夫婦を無事送り届けられたことは良かったです。何と言っても単に車に乗せただけのこと、旅は道連れ、ではないですが、誰でもそうするよね、というのをやったまでのこと。身に余る感謝を頂き、かえって恐縮でした。

 

 いっぱい清水も真弓清水も「鉄分が少ない」こと、また水質の良さに定評があり、実際に非常に素晴らしい湧き水だと感じました。近場であれば定期的に通いたい。近場でなくとも、このガソリン170円時代に、コストパフォーマンス度外視に、あえて通いたいと思わせてくれる湧き水に違いありません。皆様も各位お誘い合わせの上、ぜひお汲みにお出かけください。次回は「新地三清水」と呼ばれる新地町もうひとつの湧き水「右近清水」まで足を運ぶことにしましょう。

 

 

アクセス

 いっぱい清水から:県道103号を東進し常磐自動車道の高架橋をくぐった次の十字路を右折、道なりに進むと今度は常磐自動車道を下に越えるのでさらに進んだ先の最初か次の十字路を右折(どちらの十字路にも「名水真弓清水」の看板あり)、道なりに宮城方面へ走れば右手に真弓清水。

 国道6号から:新地町役場に近い新地交差点のひとつ北の小さい十字路(信号はない)を西方面へ右折または左折。目印に「右近清水」と書かれた看板が立つ。そのまま道なりに直進すれば右手に真弓清水。

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 水の神、というか水の精霊として有名なウンディーネポルトガル語やイタリア語では「Ondina」とつづるそうですが、アート・リンゼイの曲にあったなと思い出したので貼ります。「この世界の片隅に」のすずさん曰く「まだまだ暑い」。今年は恐ろしく暑いですので、せめてものおしめりになれば。