water_sky’s waterbound diary

酒に溶かしたやり場のなさと打ち明けられた愛のあいだ、泥の川とディラックの海のあいだ

一矢神社の湧き水[常陸大宮市高部]☆☆☆

 
 汲長(くみちょう)から「お前、何となく山側へ行けばどこでも水が汲めると思ってんだろ? だからお前はだめなんだよ」「採水中に眠そうな顔をするのは管理ができていない」「採水力がない」などとひどい"ウォタハラ"を受けてしばらく休水していました。私の心のダムはすでにあふれ返ってしまっていたのです。そしてダムが決壊してしまわないうちに、逃げることしかできなかったんです… 水汲みから。
 そして私は考え続けました。"私にとっての水汲みとは何か"を。ゆきずりの水を汲み後悔したりもしました。そうやって水汲みと真正面から向き合ううちに、ある日コーヒーを淹れ何気なく口に運ぶと…「うわ、まっず!」思わず叫びました。ポットのお湯は水道水だったのです。そのあまりのカルキ臭さに、私は残りのコーヒーを全てシンクにぶちまけました。とても飲んでいられなかった。そうか、私はうまい水を飲むために水を汲んできたんだということにその時気づかされたのです。そんな当たり前のことに、しかし競馬で負け続けていた私は頭のネジがどこか飛んでいたのでしょう。
 
 正確にはいまだに飛んでいます。つまるところ競馬ばっかやってたってことなんですけど…。先日行われた海外競馬馬券発売第2弾となる「メルボルンカップ」。言わずと知れたオーストラリアのビッグ・レースに、日本からカレンミロティックが参戦。すわ、金儲け!馬産振興!と意気揚々とJRAも海外馬券を発売、平日にもかかわらず6億超の売り上げとなったとのこと。私も先週の負けを取り返さんと、いやさ日本国の馬産振興に多少なりとも貢献したわけですが、まずはじめに☆を打ったハートブレークシティー、後で△打ったアルマンダンがそれぞれ2、1着に入り、三連複BOXに両頭とも入っていたのに3着ヌケではずれ、さらにワイドBOXも買っていたがこちらはアルマンダンを入れておらずはずれ、ビッグオレンジからながした三連複に上位3頭とも入ってるのに肝心のビッグオレンジが10着に敗退してはずれ、つまるところ全はずれ。今度はアメリカのブリーダーズカップF&Mターフにヌーヴォレコルトが出るのでこれも買わなければならない…のだが全然分からん。どうしてもアイルランドオークスを勝ちまた英G1でファウンドを下したセブンスヘブンが人気するのだろうけれど、チャンピオンズディスタンスでのパフォーマンスは誰も見たことがないわけで、そこにつけいるスキがあるようにも思える。そこで他の馬を見ると、持ち時計で2分を切っているアベンジやレディイーライあたりから入るのがいいのかもね…。アメリカの芝って日本のようにかは知らないが軽いというイメージなのだが、もしそうならばセブンスヘブンはガリレオ産駒、欧州の重い馬場で結果を残してきたなら、アメリカの馬場で後塵を拝するところは容易に想像がつく…だが血統を持ち出せば、祖父サドラーズウェルズは近年このレースでは好成績を残しているそうだし、母父はヨハネスブルグ。むしろ容易に克服するのかもしれない。こればっかりは「買ってみないと分からない」。大外枠に入ってしまったヌーヴォだが、ロスなく前に付けることができるなら押し切るところも想像できる。アタマでは買いづらいが…。ふと国内に目を向けてみれば、3日(木・祝)には川崎でJBCもある…。ああ、水を汲みに行っているヒマなんてない!!
 
 「水道水でコーヒー淹れてもカルキ臭がひどくてとても飲めたもんじゃない」。そんな当たり前のことに今になって気づく。そして気づいた途端、どうしようもなく湧き水が欲しくなる。私の心だけでなく身体が、湧き水を求めて渇いている。耐え切れなくなった私は思わず外に飛び出した。
 しかし、季節は大きくうつろい、今はもう秋。「うわ、寒っ!」つって私は慌てて家に戻った。そして明日のJBCクラシックの出馬表を眺めながら「クリソライトは6番人気か〜。つうかもう6歳か。一流馬とやると展開的に厳しいんだよなあ」と毛布をかむってひとりごつのだった。
 
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 もしあなたの心のダムが決壊してしまいそうになっても、あなたのダムのキャパシティにいちゃもんが付いても、そんなことは全然気にする必要なんてない。だって水汲みに行くときにはだいたい20リットルくらいのポリタンクがいいもん取り回しが。ダムなんて持ってってもいつまでたっても水汲み終んないでしょうよ。
 自分なりのポリタンク、さがそう。
 
 リハビリにはちょうど良いんじゃない。ってんで常陸大宮市は旧美和村地区に鎮座する一矢神社に、おつかいがてらにふらっと訪問。
 

 
 こちらの神社は境内の御由緒によれば、安永2(1773)年、つくば市一ノ矢八坂神社より御霊を勧請されたとのこと。当時は伝染病が蔓延していたのでしょうか、しかし勧請して神輿をワッショイすると、なくなったそうです。鳥居の笠と貫の間隙に矢が奉ってありますが、昔悪い鳥がやって来て田畑を荒らしていたので矢で射ち落としたのだが、それが最初の一発で成功したため、まことにもって慶賀なことだということで、尊称としてこの神社に名付けられたとのこと。歴史はそんなに古くはないが、全体的に、いい感じの神社です。
 その一矢神社の境内に、水が湧き出ているんですね。
 

 
一 矢 神 社 の 湧 き 水(仮称)
 
 社殿から向かって右側の斜面に設えられた井戸から湧出。実際には水汲みに使うよりも境内のお手水、また隣接するお墓の手洗いがわりに利用されている節ですが、湧出量は結構豊富です。山は深い美和地区ですから、水源も安定しているのでしょう。ちょいとすくって口に含んでみれば、やさしいやさしいあの山の水の味。自分を見失いかけたときに思い出してほしい、この味。何の変哲もない、と言ってしまえばそれきりだが、何の変哲もないことがどれだけ難しいか、あなた分かる? あなた何の変哲もない人ねって言われたいですか? 言われたかないでしょうそんなこと。だから何の変哲もなく存在することはとても難しいことなのだ。
 
 そんな、何の変哲もない湧き水を、何の変哲もないをめざし何の取り柄も存在感もないただの何の変哲もない人間になりつつある不肖私がお送りしました。しかし急に寒くなっていやですね。寒い、寒い、サムギョプサルジュセヨ!!
 
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 そうそう、常陸大宮市の美和地区といえば、旧美和中にて県北芸術祭が開催されていますが、行ってる? 県北芸術祭。なんだかんだで残り1カ月を切りましたね。
 
 
 「山」側は特に、学校跡地を利用したインスタレーションが多いため、それだけでもノスタルジーに依拠するような効果を作品がまとうような格好になるのだが、旧美和中のインスタレーションはむしろ意識的にノスタルジーを取り入れ、作品化されたものが多い。つまり、作者の創意とノスタルジーが強烈に接合するという点においては、比較的若い(ノスタルジーの初動的な感性を作品に集中的に注入できる)世代の台頭、そしてそれが旧美和中という空間で展開されるという帰結に、目を見張る。中でも、公式ガイドブックの表紙にも使われている落合陽一氏のコロイドディスプレイに特徴的なように、ノスタルジーとテクノロジーの融合。が通底したテーマだ。古くて新しい。そんな県北、ぶっちゃけちょっと想像できないのだが(個人的には、県北芸術祭の特に山側の裏テーマは「滅び」だと思っている。県北はむしろ、これから日本各地で顕現化される「滅び」の最先端を模索していくことになる)、会場には若い女の子(東京の芸大のコ?)がいたりしてそんなことどうでもよくなる。子どもが楽しくなるような作品も多く展示されているので、気軽に遊びに行ってみては? 僕は水汲みに行くけれども。