water_sky’s waterbound diary

酒に溶かしたやり場のなさと打ち明けられた愛のあいだ、泥の川とディラックの海のあいだ

矢祭の水[矢祭町宝坂]☆☆☆☆☆

 夏が来れば思い出すのは、僕にとっては尾瀬でなくこの「矢祭の水」だ。今年も暑く、暑く、そして暑い夏がやって来たのでごく自然に思い出すことになる。僕には矢祭の水は盛夏の象徴であり、水汲みの聖地でもある。あまりにメジャーな(ベタな?)存在だと思っていたためこれまで紹介してこなかったが、このうだる暑さに体が湧き水を欲しているようだ。ただパッと行ける距離というわけでもないので、かわりに紹介することにした。暑熱対策に湧き水閲覧、お試しあれ?

 

 基本的なアプローチは西側から国道118号→国道349号を東進。と南側から国道349号→農道を北上。の2つだが、どちらを利用してもいいと思う。僕は通行の都合上、R118を使う。昔は矢祭小学校脇の細い道(R349)かその1本南の道(R349バイパス)のどちらかから入っていくため、その後の細い連続上り坂と併せて考えると若干交通の不便があったが、現在では矢祭小南側道路の小田川2工区の改良工事が完了し、真っすぐのきれいな道になったため、通行がしやすくなった。とはいえその区間も1.3キロ程度で、山への傾斜が強まるとともに道幅もグンと狭まる。幾つかの厳しいカーブをやり過ごせば道幅は回復するので、後は道なりに東進。すると道路が分岐するところで目の前に看板が立っているのが見えるので、少し右に逸れる形で農道に入る。R349は上り勾配となって塙町へと続いていく。めざす湧き水はもうすぐそこだ。

ワクワク…

 その分岐からだいたい500m程度で湧き水に到着する。一番最初に訪問した際には、なかなかの坂を越えて山を上ってきた期待感のわりには風情の無さにいささか面食らったものだ。山肌を削ってぽかんと開いた空間に、無機質な取水設備。だがそこから勇ましく、というか荒々しく大量の水が吐き出されていた。

 

矢祭の水

 この矢祭の水、看板に「岩盤浸透アルカリイオン水」などと仰々しく書かれている通り、岩盤を浸透して何と約100年前の雨水が湧き出ているとのこと。本当でしょうか。ウソじゃない? 今から100年前っつったらあーた、大正年間ですよ。関東大震災の年じゃありませんか。第一次世界大戦すら始まっていない。その時代の水をあーた、飲むことができるってすごいことじゃない?

 何やらタダナラヌ水という感じだが、硬度7.0の軟水、pH国内トップクラスの9.1。という稀有なスペックの持ち主。一口飲めば、酸化しきったあなたの汚れた身体もリセットされること間違いなし。100年も前の水なんて、どんだけすごい水なのかと期待は否応なく高まったものの、口当たりは当然ながら普通の水と変わらない。pHは9.1ということで強めの弱アルカリ性。この弱アルカリ性水は胃腸の働きを整えたり汚れの落ちが良かったりするが、飲み過ぎると胃酸の働きを阻害するデメリットもある。要するに何事も中庸が肝要であって、身体も中性が良いよね、かといってこりゃあ都合がいいやと一気飲みすると胃腸の働きが弱るから、良い塩梅で利用するのがいいよね、ということだろう。足繁く通うことが湧き水に対する一種の礼儀なのかもしれない(本当か?)。

 

 そんなわけなので先日、久々に行ってみたのだが、なぜか行き過ぎてしまって湧き水を見つけることができない。はて?と思い引き返してみてその原因が分かった。周囲の林が伐採されて景色がすっかり変わっていたのだった(大清水の清水)。

 

 かつて、奥に進むと岩の間から水が滴り落ちていたポイントがあったのだが、それも見当たらなくなっていた。

 

 

 足繁く通ってみないと、こういう湧き水の変化に気づけない。矢祭の水を初めて訪れてから10年以上たつ。100年間も岩の間を通って湧出する水を体内に取り込んでみて思うのは、100年後もこの水は飲めるのかしら、ということだ。今僕が飲み込んだこの水が流れてきた100年は、日本が近代化に邁進し、それをある程度達成し、または多くの犠牲のもと達成され、成熟し、それが瓦解せんとする年月であったと思う。次の100年がどうなるのか予測もつかない。だが変わらず飲むことができるなら、それはそれでいいことじゃないかと思う。そして、多くの湧き水がそうやって何百年と流れてきたことだろう。水にはその悠久の時が刻まれている。

 なお、夏の午後にここへ行くと、結構な割合で雷鳴を聞くことになる。それもかなり近くで。地形図で確認すると、周囲は標高500mを超えるピークに囲まれており、ここは空に近い場所だ…という感慨を得るのだ。と言っても付近には人家もあって下界と隔絶しているわけでは全くないのだが、足繁く通うにはちょっと骨が折れる場所ではある。

 日が沈むまで時間のあるこの季節、矢祭の碧い山を眺めつつぜひ訪問してみてほしい。

 

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 最近聴いている曲はもっぱらK-POPなんですが、(ナツノヒカリ以外で)夏の曲といえばというのを貼っておきます。YouTubeにはデモしかないので。原曲よりも解像度が高く生き生きとしている。